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浅田次郎の小説【書評一覧】 > ハッピー・リタイアメント
作品名: ハッピーリタイアメント 作家名: 浅田次郎 ジャンル: 長編小説 笑:☆☆☆☆☆☆★★★★ 楽:☆☆☆☆☆☆★★★★ ス:☆☆☆☆☆★★★★★ 危:☆☆☆☆☆☆★★★★ 浅田次郎その他の小説 |
プロローグとして、浅田家に訪れたとある珍客のエピソードが描かれる。
その珍客とは、浅田が30年前に起業をした際に借金を立て替えてもらった某公的機関の「整理部」のもので、浅田はろくに返済を果たせぬまま「時効」になるという不義理を働いていた。
そしてその珍客は、浅田の案件を「整理」するために、ようは返済の意思が浅田に「ない」ことを確認しに訪れたのだ。
しかし30年前のこととはいえ、自分の働いた不義理に責任を感じた浅田は、どういうわけか法的には返す必要のない30年前の借金の返済を決めてしまう。
貧しかった過去の自分の不義理に対して支払った、現在の誠意の代価。
かくして浅田はこの小説『ハッピー・リタイアメント』を「買った」のだ。
物語はまさしくこの某公的機関の珍客が主人公といっていい。
GHQが作った、若き企業家たちの債務保証を代行する公的機関JAMS。
ここに配属されることになった2人のおっさんと、秘書件庶務の女がこの物語の主人公なのだ。
しかしこのJAMSの現在の業務は「返済不能の債権の保管」をすることで、ようするに業務は何一つない。つまり完全にその存在価値を失っており、今となっては公務員の天下り先としての機能を果たしている。
つまり職業人として<腐った>公務員のロートルたちがぬくぬくと余生を過ごす温床、それがJAMSなのだ。
そんな戦線を離脱したものたちの居場所に、どういうわけかノンキャリア・たたき上げの、元財務省の樋口、元自衛官の大友が配属されることで物語は始まる。
今となっては終わった者たちの楽園であるこのJAMSに、活きのいい2人の配属は明らかにミスキャスト。
しかしこのミスキャストに遭遇した立花女史は、2人の活きのいいおっさんとともにJAMSの本来の業務、すなわち「返済不能の債権の整理」を始める。
公的機関の組織の説明やら、腐りきった天下りの構造の説明やらでストーリーがなかなか進展せず、前半はいつ動きがあるのかとどぎまぎするが、いよいよ返済整理が始まってからのダイナミックな進展が心地よい。
また、その債務者たちのキャラクターがいちいち可笑しい。
さらに腐った元上司とやりあうシーンの爽快感がたまらない1冊。
ある種の悪漢小説的面白さか。
そこんとこはさすが浅田次郎。
ところで床屋で髪を染めている間にこの本を読んでいたんだけど、債務者の1人「ニック・オノ」が焼肉屋の「にくにくニック」のチェーンを鹿児島の天文館に開くシーンがでてきてびっくらこいた。
なんとその床屋、まさしく天文館にあったのだ。
本を読んでいるとしばしばこういうシンクロニシティに遭遇するので驚く。
追記:2015年10月19日、テレ朝でドラマ化されました。
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浅田次郎の小説【書評一覧】 > 薔薇盗人
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浅田次郎の魅力は、『鉄道員』のようなしっとりした純文学が書ける一方で、<プリズンホテル>シリーズや<きんぴか>シリーズのようなユーモア小説を書くこともできるところ。
そんな浅田次郎の魅力がきゅっとつまっている短編集がこの『薔薇盗人』だ。
ひなびた温泉街の場末のストリップ、4畳半に暮らす貧しい母娘と母の恋人。
基本的にこの短編集の色調は、貧しさの中にはぐくまれる情、といういかにも浅田次郎らしいテーマで、しっとりとした優しい雰囲気に包まれている。
しかしそんな中に、ユーモア小説が紛れ込んでいる。
「奈落」と「佳人」の2篇だ。以下あらすじ。
奈落
庶務課課長代理の片桐が死んだ。
片桐は入社当時は東陽物産随一の切れ者として知られる若手だったが、人事の件で上司に反論してからは完全に干され永年雑用係の庶務課暮らし、以来切れ者の影はひそめ、どじ社員として誰からも無視されるようになっていた。
そんな片桐の死に様は、ゴンドラが来ていないのにドアが開いてしまったエレベーターに乗り込みそのまま転落する、というものだった。
どじ社員として馬鹿にされ続けた片桐らしい最期だった。
片桐に身よりはなく、葬儀は東陽物産の庶務課が仕方なくいやいや開いた。
そんなどうでもいい通夜や葬式に参加することになってしまった東陽物産の社員たちの愚痴や噂話によって、この物語はつむがれる。
そしてそんな社員たちの会話から、徐々に片桐の死の意外な真相が明らかとなる…
佳人
身長180センチ、容姿端麗、明朗闊達で語学は堪能、歳は38で独身。
それが新一の部下の吉岡という男だ。
38で独身。
有能であるだけに、このままでは吉岡を海外支社に引き抜かれてしまうことを恐れた新一は、70歳の母を介して吉岡に見合いをさせることを決意する。
しかしこれだけの男がこの歳まで独身であったことから、新一ははたと不安を感じる。
というのも吉岡はホモ、あるいはインポか恋愛トラウマの持ち主かもしれないと思い至ったのだ。
そんな不安を抱えながら、吉岡を自宅に呼び出し、いよいよ新一の母から見合いの話を切り出すことになる。
果たしてこの見合いの結末は…
この2篇については、爆笑小説というよりは、ユーモア小説と呼んだほうがよさそうだ。
大爆笑を誘う作品ではないが、くすりと、あるいはニヤリとしてしまうこと請け合い。
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