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作品名: アサッテの人
作家名: 諏訪哲史
ジャンル: 長編小説

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆★★★★★
ス:☆☆☆☆★★★★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆☆★★
諏訪哲史の他の小説
【書評・あらすじ】
 第137回芥川賞受賞作。
 大変に温厚な人物でありながら、日常の団欒のさなか、突如として「ポンパッ!」と叫ぶ、そんな奇癖をもつ主人公の叔父さんを描いた小説。
 自分が「日常的」の中にあることが生理的に耐えられず、「日常的」からなんとかほつれ目を作り出すことでようやく均衡を保つことができた叔父さん。
 しかし実は叔父さんの均衡は、彼の妻が作り出す「日常」によって保たれており、妻の死によって「日常」を失った叔父さんは、次第に<アサッテ>の世界に没入していくこととなる。
 そんな<アサッテ>の世界に生きた狂気の人を描いた物語。
 
 この小説については、内容はさることながら、その「語り」の独特さが特筆すべき点だと思う。
「あちらこちらに未だ田畑を残す町並みを、バスはのろのろと寝ぼけたように進んでいった……」
 物語はまず、このように実に普通の小説風に始まる。主人公が失踪した叔父さんのアパートに向かうシーンだ。
 しかし実はこの箇所(文庫本で2ページ)は、筆者=主人公がこれまでに書いてきた小説の草稿の一部であり、実際のところ、直後に筆者自身が地の声で「私自身、今もってさかしらなスノビズムの毒気を嗅ぎとらずにはおれない」等の言い訳を始めるのだ。
 
 さてこの小説は以下の語りによって構成されている。
1.言い訳と解説のために時々現れる筆者の語り
2.筆者がこれまでに書き溜めた小説の草稿
3.叔父さんが書いたらしい日記
4.筆者が想像して書いた、叔父さんの妻の日記(なんてひねくれ方!)
 
 このように、小説の語りは極めて独特。
 筆者が度々登場することから「メタフィクション」として語られることもしばしばのようだが、諏訪哲史によると、この小説の狙いはむしろ「アンチ・メタフィクション」にあるのだそうだ。
 こうなってくるともうなんだかよくわからないし、まあこの際どうでもいいのだけど、この語りの独特さは文学的実験として大変見ごたえがある。

 ちなみに内容は、先にも書いたけど、発狂した叔父さんと彼の奇癖(突如「ポンパッ!」と叫んだりする)にまつわるもの。
 僕は昔から、もう一人の自分がいやらしい目でじっとりと現実の僕のことを観察していて、そのもう一人の自分に対して自意識過剰、みたいなところがあるの。この『アサッテ~』のテーマはその辺にある気がした。
 自分が「日常的」の中にいることが生理的に受け入れられず、かといってその「日常的」がなければ精神的均衡が保てない。
 そしてそうやってのたうちまわる自分を、ニヤニヤと笑いながら眺めるもう一人の自分。
 とうとうこの感じを表現する小説家がでてきた!と結構真剣に感銘をうけた一冊だったりする。

 なお、上記の解説でなんかややこしそうに見える上、芥川賞受賞作で「笑い」ってあまりイメージにないかもしれないが(僕が不勉強なだけかもしれないけど)、実はその選考委員をして「声を出して笑った」と言わしめた作品でもある。
 僕もやはり声を出して笑った。それもこらえ切れずに思わず吹き出してしまう部類の笑いだ。
 図書館や乗り物の中で読んだらえらい目にあうので要注意だ。
 
追記:
 そろそろかなと思っていたら、案の定、2010年7月15日に文庫化されてました。以前読んだときは単行本を図書館で借りただけだったので、いよいよ買いかなと思っています。正直もう一度読み直すにはかなり気合がいりそうだけど。
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