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書評ブログの【笑える本を読もう!】

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作品名: 異人伝 中島らものやり口
作家名: 中島らも
ジャンル: エッセイ

笑:☆☆☆☆☆★★★★★
楽:☆☆☆☆☆★★★★★
ス:☆☆☆☆☆★★★★★
危:☆☆☆☆☆★★★★★
中島らものその他のエッセイ 
【書評・あらすじ】
 中島らも晩年の自伝。
 従来のエッセイとは違い、口述筆記風の口調(インタビューみたいな感じ)で語られている。晩年は抗うつ剤の副作用で目が見えにくくなったため奥さんに口述筆記をお願いしていたというから、この『異人伝』が口語体なのはてっきりそのためかと思っていた。が、まさにその抗うつ剤の話が本の中で話題に上っているので、どうもこの本は目の快復後に書かれたものらしい。じゃあなぜこの本まで口語体なのか。謎である。最後の最後にスタイルを変えたのかな。誰か知っている人教えてください。

 自伝としてはこの10年前に書かれた『僕に踏まれた町と僕が踏まれた町』がある。とはいえわざわざこうして新たに自伝を出しているわけだから、内容はぜんぜ…まあ、だいぶ重複している(ネタの重複はらもさんファンとしては言わずもがなのことだよね、イエイ)。
 ただ『僕に踏まれた~』と大きく異なるのは、『僕~』が大学卒業までを描いた自伝だったのに対して、この『異人伝』はそれ以後の、結婚、印刷屋への就職、作家への転進などについても語られている点だ。これらのことは…まあ、別のエッセイのいたるところで書かれていたりするんだけど。
 しかし2004年当時(もうリリパット・アーミーを抜けてバンド活動をしていたらしい)の中島らものことが語られるのはこの一冊だけだと思う。その頃の情報は、当たり前ちゃあ当たり前だけど、ないんだよね。そんなわけでファン向けな一冊かな。この一点に価値を見出せる人向け。

 当時は『ロカ』(未完の遺作となる)を執筆中だった頃のようだけど、どうも別に『七福神』という長編にも着手していたらしい。この本の中でざっとしたあらすじを読むことができるが、『空のオルゴール』のようなエンターテイメント作品だったようだ。もしや今後この『七福神』の原稿もなんらかの形で出版されたりするんだろうか。遺稿集とか?詳しい人教えてください。なんにしても完成した作品を読んでみたかったよ。

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作品名: 天下り酒場
作家名: 原宏一
ジャンル: 短編小説

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆☆☆★★★
ス:☆☆☆☆☆☆★★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆★★★
原宏一その他の小説 
【書評・あらすじ】
 変な設定の上で突飛ではない丁寧な物語を書く原宏一の短編集。これまで『床下仙人』と『ダイナマイト・ツアーズ』を読んだけど、この3作品の中で一番笑えて気に入った短編集だった。
 表題作「天下り酒場」を含む6編の短編を収録。

1.天下り酒場
 居酒屋「やすべえ」を営むヤス。経営は苦しいが足しげく通ってくれる常連客のおかげでなんとかやっている。そこにあるとき、常連客の一人から、頼みごとをもちかけられる。というのも県庁のお役人の「天下り」を引き受けてもらえないか、というのだ。
 かくして働き始めた元県庁のお役人片岡。初めは片岡の改善による売上上昇に気をよくしたヤスだったが、気が付けば店はエラいことになってしまっている。

2.資格ファイター
 資格を取得することにかけては天才、しかしいざ実際に仕事の現場に就くとてんでだめな駄目社員、勇一郎。これまでに取った資格は300近くに及ぶが、自分の「使えなさ」を実感している勇一郎にとって、もはや受かってもどうでもいいことになっていた。
 しかしそんな勇一郎の才能に目をつけた芸能プロダクションを自称するヤマカンという小太りの親父に見込まれ、「資格ファイター」としてタレントS-1ファイター「YOUイチロー」として売りだされることに。地元のスーパーでの地方周りのシーンは秀逸。
 
3.居間の盗聴器
 笑える本的名作。妻に言い渡されいやいやながらテレビの裏の配線をいじろうとしたところ、とぐろをまくテレビ関係のコードの下に盗聴器らしきものを発見する。なぜこんな普通の家庭の居間にこんなものが仕掛けられたのかわからないが、今はきっとそういう時代なのだ。
 これまで家族とはろくにコミュニケーションをとらず、妻とは口を利いても愚痴と夫婦喧嘩ばかりだった章介だったが、仕掛けられた盗聴器からそのようなプライベートを盗み聞かれることを恐れ、早く帰宅、家族と食卓を囲むといった、盗み聞かれても恥ずかしくない生活を演じ始める。
 ショートショートのような納得させられるオチもあり、心温まる名作。

4.ボランティア降臨
 あるとき押しかけるように我が家にやってきたボランティアのクボタミチコ。いろいろやってくれるのは助かるが、住み込みで我が家関係のあらゆることをやってくれるというのはちょっと度が過ぎている。苦言を呈しても「善意ですから」と交わされてしまう。不気味に思っていた喜美江だったが、家族は喜んでいるし、自分はパートで忙しいし、なんか家での自分の存在意義も曖昧になってしまったし…。
 ところでこの作品、どこかで見たことある話だなと思っていたら、「世にも奇妙な物語」の原作だった。
 世にも奇妙な物語 春の特別編2009で映像化。ボランティアのクボタミチコ役は大竹しのぶ。うむ、イメージどおりの適役だ。「不気味な善意のボランティア」を演じるのにこれほど適した女優がいようか。

 ほか2話(「ブラッシング・エクスプレス」「ダンボール屋敷」)収録。
 居酒屋に天下りする元役人、なんの変哲もない家庭に現れた盗聴器、突然押し入ってきたボランティア、etcetc。原宏一という人の作品は、どの話も設定としては変なのだが、物語としてはきちんとしている。いずれの設定にも読者が納得するだけの説明がきちんとつけられるのだ。
 そういった、変な設定の上での丁寧なストーリーというのがこの原宏一の作品の特徴なのだと思う。
 最近お気に入りの笑える本作家。

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