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井上ひさしの小説【書評一覧】 > 青葉繁れる
毎年東大への合格者を多数輩出する東北で随一の新学校に通う主人公の稔。
とはいえ、彼はその中でも落ちこぼれの最下位クラスに属する。
高校3年生にして成績は振るわず、歩いて5分の通学路をわざわざ15分かけてのんびり通っては、すれ違う女子高生たちをモノにして草むらに押し倒し、その下着に手をかけるところまでを毎日夢想している。
彼の友人でやはり落ちこぼれクラスのデコ、ジャナリ、ユッヘ、そして転校生の俊介とともに、女の子といいことしちゃいたい高校生としては極めて健全な(つまり行動原理は「すけべ」な)活動を繰り広げる。
正義漢で純粋で活発で、そのくせ可愛い子とすけべにはてんで目がない高校生たち。時代は異なれど、男子であれば誰もが共感できるであろう青春小説だった。
ところでまた高校生の青春モノだ。僕は故あって自分の高校時代を暗黒時代として心の奥の物置に閉まってしまっているから、その反動かどうも青春モノを見つけると思わず手を伸ばしてしまう。
すでにここで紹介したのは、大槻ケンヂの『グミ・チョコレート・パイン』、村上龍の『69 sixty nine』、芦原すなおの『青春デンデケデケデケ』などがある。
これらの舞台を年代別にあらわすと、『グミ・チョコ~』は恐らく80年代、『69』はぎりぎり60年代、『青春デンデケ~』は60年代序盤、そして『青葉繁れる』はストーリーが戦後そう遠くないようだったので50年代と推測される。
こうしてみると各時代別に綺麗にすみわけされていて面白いのだけど、どの時代であっても、主人公たちを通して描かれるテーマは「女の子」と「すけべ」だったように思う。やはり男子高校生のテーマはこれだ。
今回紹介した『青葉繁れる』は、印象としては『69』のハチャメチャさと、『青春デンデケ~』の性善説の世界が合わさったような感じだった。
主人公たちは結構むちゃはするし、え、それって、と思うようなショッキングなことも実はしているんだけど、誰一人として悪人が出てこない。
そういう意味で読み応えは損なわれるものの、逆にいうとさくっと楽しめる一冊だった。
セリフに用いられる東北弁が印象的。
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井上ひさしの小説【書評一覧】 > ブンとフン
ここ数ヶ月でなぜかアクセスが伸び、以前の倍近くの方に見てもらえるようになり調子ぶっこいているこの笑本!なんだけど、最近なんと、とうとう海外の方からメールをいただいてしまった(バリバリ流暢な日本語で)。
びっくりですよ。
これでもうインターナショナルなブログですよ。国際派、笑本!ですよ。
(あ、ところで以前からこのブログの名前を略すとき「笑本!」て書いてきたけど、さっき調べてみたら、「笑本」って古い日本語で「春画」という意味らしい。まあ、いいけど)
そんなわけで乗りに乗っている春画!管理人です。ごきげんよう。
それでその方から教えていただいたのが、今回春画!初登場の井上ひさしなのだ。
以前から名前は知っている程度に知っていたのだけど、読むのは初めて。
元は放送作家・劇作家の小説家なのだそうだ。まるで中島らものようなバックグラウンドだ。ちなみに放送作家としてのヒット作は「ひょっこりひょうたん島」。うはっ大物!
そんなわけで、「ブンとフン」だ。実はブックオフで見つかった順にいい加減に買ったのだけど、奇しくも井上ひさしのデビュー作とのこと。導入にはちょうどよかった。
感想としては、とにかく人をくった小説だった。ちなみにこの言葉は、笑える本的褒め言葉ね。
しがない小説家のフン先生は、以前こんな書き出しの小説を書いていた。
「ブンとは何者か。ブンとは時間をこえ、空間をこえ、神出鬼没、やること奇抜、なすこと抜群、なにひとつ不可能はなくすべてが可能、どんな願いごともかなう大泥棒である」
そんな「どんな願いごともかなう大泥棒」、四次元の男ブンがあるとき「空間をこえ」て、小説から現実世界に飛び出てきてしまう。そして世界は大混乱…。
と、あらすじとしてはこんな感じ。一見すると、そこまでめちゃくちゃな話じゃなさそうだと思ったでしょ?
しかし僕が「人をくった小説」と思うのは、その小説の枠のぶっ壊し方にある。
まず物語がどんどん本筋から離れてしまう。本筋とはほとんど関係のない登場人物が何人も登場し、その人の紹介にいつまでも紙面が割かれる。しかもその登場人物が劇中で歌う歌や、俳句、和歌まで登場するのだ。
中でも長い歌にいたっては、8ページにわたって続き、しかもこれが物語りの本筋とまったく関係がないのだからびっくりだ。
なお、小説内には歌がよく出てくる。キャラクターのテーマ曲から劇中のテレビ番組のテーマソングまで。とにかく歌、歌、歌。それでよく考えたら、この辺りがかなり「ひょっこりひょうたん島」的なのね。ミュージカル調というか。
それから特に人をくっていたのが「のりしろ」の存在だ。
少し卑猥な表現が出てきたら「このへんのくだりを、読者諸君のお母さん方に読まれると困る」との理由でページの端に「のりしろ」が用意されているというぶっ飛び具合なのだ。のりで綴じてしまえってことなんだけど、ありがたいというかなんというか。
この小説の枠のぶっ壊し具合。
40年も昔に書かれた小説のはずなんだけど、今読んでもかなり斬新な小説だった。
井上ひさしのテレビ人的な感覚が生かされていたのかなと、今書いていて思った。
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