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松尾スズキの小説【書評一覧】 > 老人賭博
1年くらい前に松尾スズキの新作が出たことを知りつつ、ブックオフに流れてくるのをずっと待っていた。
それがとうとう発見。鹿児島ブックオフ事情も捨てたもんじゃないぜい(自転車で片道30分かかるけど)。
26歳、貯金はなく借金は200万。マッサージ師として密室でひたすら客のこりをほぐしながら、金子堅三は老人になるまでの残り数十年の退屈をなんとかしのごうとしていた。
しかし金子のもとに海馬吾郎がマッサージを受けにくることで、金子の人生に転機が訪れる。海馬は知名度のまったくない脚本家、監督にして俳優なのだが、金子は偶然彼のことを知っていて、なおかつ海馬が監督した唯一の映画のファンでもあったのだ。
そんなこんなでなりゆきで海馬の弟子っぽいものになることになった金子は、あるとき海馬に連れられて北九州市白崎のシャッター商店街で行われる撮影に行く。
シャッター商店街。その退屈な撮影現場では、喧嘩の勝ち負けから撮影のNG回数までもが皆の賭けの対象となっていた。
そんな撮影現場での一つの賭けの勝ち負けに奔走する人たちの悲哀(?)が描かれる作品。
松尾スズキに関しては『クワイエットルーム』や『同姓同名小説』での期待があまりにも大き過ぎたためか、この『老人賭博』ではなんだか肩透かしをくらっちゃったような気がした。もうちょっとめちゃくちゃな話を期待していたんだけど。
しかしまあ、細部はやはり松尾スズキらしく、かなりブラックで笑えるシーンがあったのでいっかな。上の2作のように特にすごいと思うようなことはなかったけど、逆にいうと読みやすい作品だったんではなかろうか。
なお、海馬のモデルは恐らく松尾スズキ自身で、序盤の小話ででてくる御手洗恭二は温水洋一がモデル。実は温水さんは劇団大人計画の創設メンバーでもあったのだけど、若かりし日に相棒の松尾スズキとの間にひと悶着あって以来絶交状態なのだ。というのも温水はあろうことか当時の松尾の女を寝取っており、松尾はそれ以来そのことをずっと恨んでいるのだ。そのときのことはエッセイでしばしば言及してあるが、この小説でもその話しがでてきたので、未だに恨んでいるのかとびっくりした。
ちなみに松尾スズキのツイッターによると、主人公金子のモデルは門手なる人物なのだそうだ(老人賭博の主人公のモデルになった門手って男が今臨時付き人をしてくれているのだが、「飲むと手術をした顔が腫れる」ってんで、店に連れてっても白飯ばかり頼む…松尾スズキのツイートより)。
さらになお、小説の舞台となる「白崎」は、北九州市の「黒崎」がモデル。たしかに黒崎は小説どおりヤンキーとヤ○ザの街で、駅前には巨大なシャッター商店街がある。このあたりいったいはもともとは工業で栄えていて、少なくとも10数年前までは商業施設なんかもあってにぎわったように記憶しているが、今では完全に飲み屋と風俗とドンキホーテの街になっている。この「過ぎ去った感」がなんとも味わい深いところだ。実は僕は学生時代に、この街にある黒崎マーカスというライブハウスによく立っていたので、けっこう思い入れのある街だったりもする。
なんにせよ松尾スズキは北九州出身なので、地元を舞台の小説になったんだろうね。松尾スズキの北九州に関する話は『星の遠さ寿命の長さ』に詳しい。
~~~~~~~~~~~追記(2013年2月16日)~~~~~~~~~~~
はい、ということで、上記の文章に思わぬ後日談がついたのでここに記しておきます。
なお、上の文章は2011年6月5日に書いたものです。ちょっと覚えといてください。
今日、街で2時間ほどつぶさなければならなくて、紀伊国屋で本を物色していたんです。
でこの『老人賭博』が文庫化されているのを見つけて「おー」なんて思いながら、しかしまあ単行本を持っているので、文庫版の解説だけ見てみようと立ち読みしていたわけです。
解説はミュージシャンで脚本家のケラリーノ・サンドロヴィッチ。かつてナゴムレーベルで大槻ケンヂを見出した人だったりするので、けっこう僕にはなじみ深い名前なんですね。
それで、おー、ケラさんどんな解説書いたんだろうとすごくわくわくしながら解説を読み始めたわけです。
ところが…なんというかその文章に凄い既視感を感じるんですよね。この解説の文章どこかで見たことがある。
でまあ、察しのいい方はお気づきのことと思いますが、なんとケラさんの解説にこの記事がそのまんま引用されちゃってるわけですよ。
さっき覚えておいてもらったように、この記事が先ですからね。
また、<白崎=黒崎>ネタや、「<海馬=松尾スズキ>なぜなら温水」というくだりなんかもそのまんま解説に使われている…。
ここに僕がかいたことがかなりの濃度でパクられ、いやもとい、「参考に」されているわけです。
びっくりしたけど、あのケラさんがこのページを見てくれたんだなーといううれしさと、あのケラさんが解説を頼まれて大急ぎで「老人賭博 あらすじ」とかいうキーワードでシコシコ検索したんだろうなという可笑しさで、もう許せちゃう。
そんなわけで紀伊国屋でこの解説を見てしまって、本当は単行本があるからいらないんだけど、驚きのあまり思わず文庫本買っちゃいました。
文章パクられたがために本を買っちゃうというとてもレアな形で、ケラさんの解説は見事1冊の売り上げに貢献したのでした。
せっかく買ったので、証拠写真。
赤で囲った部分がこの記事と同じ内容です。いやはやびっくりだね。
まずはこの記事冒頭のあらすじ。
そのまんま引用されてます。
そして温水と黒崎の話。
「いつか誰かに聞いたような気がする」ってそりゃこのブログを見たときにこの記事で知ったんだろうが!「半ば憶測と頼りない記憶で書く豆知識」ってそりゃ俺のセリフだ!ほっとけ!
そんなわけで、松尾スズキの『老人賭博』文庫も絶賛発売中!
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みうらじゅんのエッセイ【書評一覧】 > 青春ノイローゼ
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作品名: 青春ノイローゼ 作家名: みうらじゅん ジャンル: エッセイ 笑:☆☆☆☆☆☆★★★★ 楽:☆☆☆☆☆☆☆★★★ ス:☆☆☆☆☆★★★★★ 危:☆☆☆☆☆☆☆★★★ みうらじゅんのその他のエッセイ |
みうらじゅんの自伝的エッセイ。
”メランコリーじゅんちゃん”と称しポエムを書き散らす、何にも不満が無いのに家出して兼六園で人知れず自分コンサートをひらく、仏像にはまり学校に法具を持っていっては仮面ライダーの要領で「弘・法・大・師!!」とやる…。
思春期、センチなあのころにやってしまった数々のいわゆる「中二病」的行動。自らのそれを「青春ノイローゼ」と呼び、思い出の地を辿りながらノイローゼ時代を振り返る。
このエッセイは1「信人的な旅」、2「マイブームの旅」、3「俺だけの旅」の3章だてになっている。
ところで実は、僕は正直1章の「信人的な旅」を読んでいる間、何度かその場で本をやぶり捨てて、すべてなかったことにしてしまおうかと思っていた。というのも1章まるまる、延々と岡本信人論が続くからなのだ。といっても岡本信人の顔が浮かばないでしょう。こんなですよ(googleイメ検へ)。そんな人の話が延々と展開されるんだからたまらんのだ。
テレビの中では決して目立っているわけではない俳優岡本信人。名前を知っている人は少ないが、しかし彼の顔を見ると誰もが「あーこのひと」という。そんな決して目立たないのに人の心に居座っているような存在。それを「信人的」と呼び、信人的な芸能人をみつけてきてはその人の信人的っぷりを検証する。
なるほど目の付け所は面白い。実際僕も岡本信人の名前を聞いてもぽかんとしていたが、写真を見た瞬間「あー」とほうけた声を漏らし笑った。
ただこれほんと、わざわざ本の1章をつかって書くようなことじゃないと思う。
岡本の話が済んだら、今度はやはり岡本のような芸能人(小倉一郎とか)の話が延々と続く。当然名前を聞いてもだれかわからないような微妙な立ち位置の人ばかりだ。それできれいに置いてけぼりにされてしまう。
だいたいにして「こんなところに目がつけられる俺」「どうだ、君にはわからんだろう」みたいなメンタリティがすけて見えるのだ。1話くらいなら面白く読んだけど、ここまで長々とそんなオナニーをみせつけられてもねえ。といったところなのだ。まあみうらじゅん信者の中にはあえてそういうのが好きな人もいるんだろうけど、それはそれでいいんじゃないでしょうかね。どうでも。
ただ、この1章を破って捨てようと思うほどに嫌いだったにも関わらず、この本の評価はわりと高め。というのも、2章から3章にかけてぐいぐい面白くなっていくからなのだ。
特に3章「俺だけの旅」がよかった。実家、家出先、初めて一人暮らししたアパート、初恋の彼女の家。
かつて自分が居た場所を旅し、青春ノイローゼだった自分を振り返る。そんな自伝的旅がとってもバカでときどきセンチで、とてもよかった。
ちなみにいい年をしてこんなことをするみうらじゅん、まだノイローゼだろう!と思ったあなた、正解!ただ「オレはその頃からズーッと自分マニアだった」と公言するみうらじゅんなのだ。その辺は笑って許そうよ。
それはそうと3章に「追憶のバンドブーム① 貴族のこと」という話があった。remoteの池田貴族がガンで亡くなったときの話だ。
池田貴族のガンについては大槻ケンヂの「めくるめく脱力旅の世界」でも語られていて、そういえばその中で大槻ケンヂに訃報を告げたのがみうらじゅんだったと書いてあった。なんだかその「めくるめく~」で読んだ話のサイドBみたいで、おーと思いながら読んだ。
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