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森見登美彦のエッセイ【書評一覧】 > 美女と竹林
『太陽の塔』『夜は短し歩けよ乙女』などですっかり人気者、森見登美彦のエッセイ集。
学生時代に竹に魅せられた<登美彦氏>が、今になって周囲の人間を巻き込みながら果敢に竹林整備に挑む。
と宣言していながら、序盤で竹を刈るのが思ったより辛いことがわかるやいなや、自分が竹林にいけない言い訳を始め、竹の会社(森見・バンブー・カンパニー)を興す妄想をし、竹と出会うことになった学生時代を回想し、一方その間妄想は会社が最盛期をむかえついにはバブルがはじけるところまで発展し、実生活ではなぜか本上まなみに会って満足したりする。つまり、竹林伐採からすごい速さで遠ざかっていってちっとも竹を刈ろうとしないのだ。
しかしそんなあきらめも、登美彦らしくてまたよし!
またよし!
ちなみに実際のところ、小説が売れ始めた当時に執筆されていたエッセイだったみたいで、おいそれと竹林にいくような時間はなかったらしい。
まあとにかく、そんな竹林エッセイだ。
このエッセイ集で僕が特に気に入ったのが、登美彦氏の学生時代の回想の場面だ。
本書では、登美彦氏が自身の学生生活を回想することで、彼自身のモラトリアムの闇がまざまざと描写される。
京大では特にやりたいことも見つからず、ふらふらと留年。もし大学院の研究室(森見は竹を研究していたらしい)に拾われなかったら自分の人生は終わっていたろう、みたいな話で、実は僕自身も極めてそんな感じの学生生活だったので、なんだか人ごとのような気がしなかった。
語り口は極めて軽妙であるものの、実際は当時にかなりの暗黒時代があったのだろうなと思われる。
小説の中で描かれるあの、森見の十八番ともいうべき大学時代のモラトリアムの忠実な再現。やはり根底には自身の経験が根深く関係していたわけだ。どうりでリアルなわけだ。
そんな具合で、竹にかまけられないかわりに森見登美彦の自伝的要素が楽しめたりして、ファンとしては嬉しい一冊だといえる。
ところでエッセイ中しばしばニーチェの「この人を見よ」のパロディがあったけど、なんか深い意味があるんだろうか。
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劇団ひとりのエッセイ【書評一覧】 > そのノブは心の扉
作品名: そのノブは心の扉 作家名: 劇団ひとり ジャンル: エッセイ 笑:☆☆☆☆☆☆★★★★ 楽:☆☆☆☆☆☆☆☆★★ ス:☆☆☆☆☆☆☆★★★ 危:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★ 劇団ひとりの他のエッセイ |
評価のむずかしいエッセイ集だった。
爆発的に笑えるかといわれるとそうでもないけど、抜群に笑える本でもある。
「笑える度」が6で「危険度」が9という偏った評価にしたのはそこなのだ。
爆笑はないが、「蓄積的な笑い」によっていつかは声に出して笑ってしまう、という珍しいタイプの笑える本だった。
もっとわかりやすくいうと、「あはは」笑いは少ないが「ニヤニヤ」笑いが異常に多いって感じかな。
そしてニヤニヤがたまりにたまって、たまりたまったニヤニヤがいつしか爆発する、といった感じ。
そういう意味でとても危険な笑える本だ。
そもそも劇団ひとりの文章の面白さは僕の中で『陰日なたに咲く』ですでにお墨付きだった。
それは正統派のフィクションで、いわゆる芸人本の中でぬきんでた面白さがあった。
おかげで読む前から、僕はこのエッセイ集にかなりの期待を寄せていたのだ。
しかしその期待を一切裏切らない面白さがあった。
ずばりテーマは過剰なまでの自意識。
目黒の寄生虫博物館に出かけてしまってからカップルのデートスポットだと知るや、「鞄からメモ帳を取り出し、寄生虫を見ながらメモをしたりスケッチを描いたり」することで、決して寂しい人ではなく、本気で寄生虫を調べている人なのだとアピールする。
富士登山に出かけ途中で大学の登山部風の若者たちに追い抜かれたら、メモ帳を取り出し近くの石を詳細に描写し、さも自分は登山が目的ではなく鉱石を調べるためにここにいるのだ、とアピールする。
その他、催眠療法にいっては唐突な催眠の設定にただただ焦る、バイクの教習所に通っては自前のかっこいいグローブが恥ずかしくてつけられない、旅行先のバイキングで心はウキウキなのに「もう満腹なんだけど、なんか暇だし……」とでもいいたげな表情を演出する、等々。そこでは溢れんばかりの自意識の告白がなされていた。
そんな気の小さいひとなら誰もが共感できる小市民的プライド。
これがもうたまらなく可笑しい。
そもそもそんなに気になるのなら誰を一緒に連れてゆけばいいのに、その名のとおりとことん「ひとり」で行動しているあたりがなんとも憎めない。
しかしこの過剰なまでの自意識の連鎖が、じっとりとした、しかし読者を確実に笑いに誘う世界観を作り出しているのだ。
さらに、劇団ひとりならではの独特な視点、独特な発想が楽しめるのもこの本の魅力だ。
特にテレビでも紹介されていたPMS(パーソナル・マイル・システム)。買い物をするたびに溜まるマイルをこよなく愛するばかりに、自分の日々の行いにマイルを加点していくシステムなのだそうだ。
読書をしたら1マイル、運動したら2マイル、人に「ありがとう」といわれたら3マイル等のルールに則りマイルがたまり、3000マイルが溜まるとカツカレーが食べれるのだという。
しかし「昨日そのことをすっかり忘れて普通にカツカレーを食べてしま」ったため、現在は先に使ってしまったカツカレーぶんのマイルを返済中なのだという。
もはや人には理解できない域に達してしまっている気もするが、そこがまた可笑しい。
またこの本で特筆すべきは、水野宗徳の「解説」にもかかれていたけど、芸能人ネタが一つもないことなのだ。
すべてが自分の考えと、自分の身にふりかかったことだけで構成されている。
恐らくもっともねたにしやすいであろう「誰がこうしてバカだった」的な身内ネタが一切ないのだ。
そういえば「陰日なた」を読んだときにも同じことを感じていたんだけど、劇団ひとりの書くものは小説・エッセイ、いずれも正統派だ。
久々に満腹になれるエッセイを読めて僕は嬉しい。
劇団ひとりのエッセイ、続編に大きな期待を寄せざるをえないボクだ。
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