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書評ブログの【笑える本を読もう!】

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作品名: 四畳半王国見聞録
作家名: 森見登見彦
ジャンル: 短編小説集

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆☆★★★★
ス:☆☆☆☆☆★★★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆★★★
森見登見彦の他の小説
【書評・あらすじ】
 久方ぶりに森見登美彦の小説。というか小説自体久々に読んだか。
 評価は楽しめ度とおススメ度を低めにしたけど、これはなんというか一般的尺度でという意味で、個人的にはすごく好きで、一晩徹夜で読破してしまった。…ために大事な会議の10分前に起きるという暴挙を果たしてしまった。まあ間に合ったけど。
 作品はタイトルどおり、あの名作『四畳半神話体系』と関連するものではあったけど、続編とかスピンオフとかいうものではなかった。
『神話体系』の登場人物(小津や樋口さんなど)がちらほら出てきはしたけど、そういう形で他作品のキャラクターを登場させるのは森見登美彦の常套手段だし、なんなら『新釈 走れメロス』の芽野や芹名なんかが主役級の話なんかもあったりして、『神話体系』のスピンオフとは言いがたい内容になっていた。いわば森見作品全体のスピンオフとして読むことならできるのかもしれないけど。
 さて、ではどうして同じ「四畳半」というキーワードが冠されているかというと、これはどうもキャラクターやストーリーというよりも本当に「四畳半」の世界を踏襲しているからだと思う。
 というとさっぱり説明になっていないけど、本当に「四畳半」の話が多かったのだから仕方がない。「四畳半」というテーマで連なっている連作短編集だ。
 以下にいくつか簡単なあらすじと気になったこと。

四畳半王国建国史
 語り手となる男は、「法然院学生ハイツ」という短編集を通してしばしば登場するアパートの四畳半の一室に自らの国家を築いている。
 この一篇は、世界を見限った、というか森見的世界観で世界からリジェクトされた語り手の独白のみで構成されていて、その内容はいかにして自分が大学のモラトリアムにさえリジェクトされ、四畳半国家を建国するにいたったかという森見節の真骨頂といった感じ。
 語り口調はどういうわけかニーチェのそれに似ている。確かエッセイ『美女と竹林』にもニーチェを思わせる記述があったので、やはり影響は大きいのだね。

蝸牛の角
 映画「たんぽぽ」を思わせるストーリーの連鎖。カメラが物語の途中でよその登場人物について行っちゃう感じ。
 小話がワンショットずつころころ転がされていく。
 空海を見習って山に修行に行ったがために猪に襲われている芽野、例年めちゃくちゃなことになり幹事はかならず失踪するという恐怖の図書館警察忘年会で不幸にも幹事をまかされてしまった男、一年出席した講義の単位をなんとかしてもらうため淀川教授の研究室に詰め寄るも一蹴されている学生など、なんとも行き詰った、いやかなり「詰んだ」感じの阿呆たちの小話が連なっている。
 そしてそれぞれの物語はやもりの足の裏やマンドリンの穴の中など、思わぬものを介して連鎖する。
 本書一の妙作。

大日本凡人会
 能力者たちの話。というと壮大なヒーロー物語発展しそうであるが、そこは森見流。
 大日本凡人会に所属する能力者たちは一様におのが能力ゆえに屈折した過去をもち、絶対にこの能力を人のために役立てたりするのものかと発起、大日本凡人会を発足していたのだ。
 そんな中、数学的に証明することでものを物質化できる能力者、数学氏が、ついに2年をかけて証明した「数学氏に彼女がいる」という事実の証明に成功する。
 かくして数学氏の彼女が現れるのだが…。

グッド・バイ
 太宰の遺作短編「グッド・バイ」のオマージュ作品。
 京都を去ることになった(ということにした)主人公が、誰だか不明な付き添い人(読者?)を連れて、本作に登場したキャラクターたち(主に女の子)に別れを告げて回る。
 まさに太宰のグッド・バイといった体ではあるのだけど、ただ大きく違うのは、とにかく語り手がまったく人からすかれていないということ。
 本人はみんなが別れを惜しんでくれるものと信じて回っているのだけど、ことごとく軽んじられ、その薄い反応になんとか言い訳をつけながら懲りずにグッド・バイを言って回る。

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作品名: ベトナム怪人紀行
作家名: ゲッツ板谷
ジャンル: エッセイ

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆★★★★★
ス:☆☆☆☆★★★★★★
危:☆☆☆☆☆☆★★★★
ゲッツ板谷その他のエッセイ
【書評・あらすじ】
 笑える本的安パイ的エッセイスト、ゲッツ板谷。
 元(現?)ヤンキー。自らの側近に集う変人たちを描くエッセイのほか、世界中を旅し、そこで出会った奇人変人との戦いを綴るエッセイを得意とする。力技の笑えるエッセイの名手。
 そのスタイルはさくら剛とそっくりで、もはや見分けがつかないレベルなのだ。
 実際、本書『ベトナム怪人紀行』を読みながら、「そういえば旅の途中で終わっちゃって次の巻に続くって感じのエッセイがあったなー。あれ読まなきゃなー」と思っていたら、よく考えたらそれ、さくら剛の『アフリカなんか二度といくか!ボケ』のことだった。
 似てるのは知ってたけど、完全に同一人物として区分けしていた自分にびっくり。

 さて、本書の紹介。
 これまで2度ベトナムに来たというゲッツ。その2度の滞在は彼にとって「完敗」だったという。
 そしてこのエッセイに収められた3度目のベトナム滞在は、「どんなことをしてでも勝ちに行く」ための旅だった。
 しかしのっけから士気をあげるためにラップを聞くべく持参したMDウォークマンにディスクを入れ忘れ、強制的に妹のユーミンを聞かざるをえない状況に。
 その後オカマの少年に気に入られたり、現地であった日本人観光客の姉ちゃんには気持ち悪がられたり、前回出会った親愛なるサイさんが再会してみるとただの詐欺師だったり、手乗り鹿や犬やくそまずい魚の輪切りばかり食わされたり。
 とにかく敗戦敗戦、また敗戦といった感じの旅になっていた。

 これまでゲッツの描いたインドやタイの紀行を読んだけど(後日追記:インドのやつは読んでませんでした。さくら剛の『インドなんか~』と混同してたみたいです。だって2人そっくりなんだもん)、今回のこのベトナムは他と比べてやけにシリアスだった。
 話の中にベトナム戦争を盛り込まれているのが大きな要因かと思う。本文ではベトナム戦争を暴走族のシマ争いに置き換えてなんとかギャグにしようと努めている様子があったけど、そんなもん同民族間の無意味な戦争という重厚なテーマの下では焼け石に水である。本書ではベトナム戦争の闇の部分が色濃く反映されている。
 また、ベトナム人の国民性も大きく関わっているように思われた。本文で板谷も言っているけど、「ベトナムは基本的にマジメな人が多いため、逆にその不器用なマジメさから生じる数々の面白いことが各所にあふれている」ということなのだ。つまりインド人やタイ人に比べてキャッチーに面白いって感じではないわけ。

 登場人物は主人公ゲッツ板谷、戦場カメラマン兼現地ガイド兼友人サイバラ(「毎日かあさん」の作者)の旦那のかもちゃん(鴨志田穣)、ベトナムに暮らすコーディネーター役の鈴木君。
 以上の3人が強烈な個性を発しながら行う珍道中。
 まあ、笑える本的安パイって感じで楽しめる一冊だったかな。

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