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さくら剛のエッセイ【書評一覧】 > 東南アジアなんて二度と行くかボケッ!
作品名: 東南アジアなんて二度と行くかボケッ! 作家名: さくら剛 ジャンル: 旅エッセイ 笑:☆☆☆☆☆☆★★★★ 楽:☆☆☆☆☆★★★★★ ス:☆☆☆☆☆★★★★★ 危:☆☆☆☆☆☆★★★★ さくら剛その他のエッセイ |
あんたとは違うんだよっ!!そこで呑気にこの本を読んでるあんたとはっ!!!一緒にしないでくれ!!オレはあんたと違って旅行にも旅行記にも一切興味なんてないんだよっ!!!
【書評・あらすじ】
久方ぶりのさくら剛。
けっこうこの人の旅行記は好きなんだけど、基本的に僕はブックオフの100円文庫コーナーでしか本を買わないので、代表作の『インドなんて~』以外はなかなかお目にかかれないのだ。
さて、この『東南アジアなんて~』は、執拗に迫り来るひきこもりストーカー男(さくら剛)から逃れるように中国に留学に行ってしまった萌え彼女のあとを追うべく、さくら自身が中国にわたった際のできごとをまとめた旅行記だ。
そのため本来は中国の旅行記となるべきものなのだが、ただし少しスタート地点の按配をちょっと間違ってしまって、南アフリカ共和国から中国を目指してしまったのだというから話がややこしい。
そんな事情があって、このストーカー男が中国まで女を追う旅行記は、以前に読んだ『アフリカなんて~』を含むアフリカ編2冊、そしてこの『東南アジアなんて~』で東南アジアを経てようやく中国に到着することになるのだ。
ちなみに彼の著書はいずれも元ネタがテキストサイトとしてまとめられているので、そちらで同様の話しを見ることもできる。
さて、『アフリカ~』を読んだとき、僕は
終始命からがらのように思えてならない。 アフリカに渡ってすぐに旅費全部盗まれちゃってるし、少年たちは昼間っから公演でラリってるし、何度も銃声聞こえてくるし。 ムカついて首を絞めようものなら即あの世行きの趣がある。てなことを書いていた。アフリカの旅は治安の問題で命の危機にさらされていたわけだ。
しかしこの『東南アジア~』とて、同様に終始いのちからがらのように思えてならない内容だった。
とはいえ、銃声が響くような危なさというわけではなくて、たとえば、冒頭で描かれるマレーシアでのできごと。
さくらはマレーシアのジャングルにある「ブンブン」と呼ばれる宿泊施設に泊まる。
このブンブンは宿泊施設とは名ばかりで、単なる掘っ立て小屋なのだ。そこで二晩を明かさなければならないさくらは、サソリのような生き物や巨大なムカデ、そして明かり一つない暗闇の恐怖に襲われるわけだけど、読んでいて一番怖かったのはむしろ中心部の村を目指してジャングルを徘徊する場面だ。
迷っている。この場面が一番怖かった。右を向いても左を向いても密林。
完全に道を見失っている。 たしかに、よくよく考えるともうずいぶん前の段階でおかしかった…中略…つまり……、オレは決して今にして道を見失ったわけではない。もう、ずっと迷っていたのだ。
人っ子ひとりおらず、いたとしても言葉など通じない。
元がテキストサイトゆえ面白おかしく書いてあるけど、街中で迷子になるのとは異質の怖さを感じざるをえなかった。
しかしまあその後は基本的に日本人が集まる安宿でひねもすマンガ読んでパソコンをするような、それ自分ちでやりなよ、と思うような旅が続くことになるのだけど、最後の最後でまたえらい目にあっているので、ぜひご一読いただければと。
ちなみに旅の途中で出会う超不幸な女性「野ぎく」さんは、本文中で人気旅行記サイトの管理人であることが明かされている。そちらの旅行記が気になる人はこちらに。書籍化もされているようですね。
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奥田英朗の小説【書評一覧】 > 純平、考え直せ
《#438 純平、最後の願いだ。考え直せ。 by名無し》
【書評・あらすじ】
タイトルが『純平、考え直せ』。さらに背表紙のあらすじを見ると、「幹部の命を獲ってこいと命じられた」ヤクザの下っ端の純平に、ネット上で「忠告や冷やかし、声援が飛び交」うとある。
このタイトルセンス。そして浅田次郎思わせる「任侠ドラマ」で、さらにそこに2ch的要素まで含まれるというのだ。なんとも笑える本的名作の匂いが濃厚な一冊じゃないか。
そんなわけで、普段はあまりそんなことをすることはないんだけど、思わず定価でジャケ買いしてしまった。
しかしそんな事前の「笑える本的」期待値の高い小説でありながら、読んでみると内容は思いのほかシリアスな作品だった。
主人公の坂本純平は、幼いころに母親に捨てられてからというもの天涯孤独に生きてきた。
喧嘩のおりに、ヤクザの北島と出会ってからは、彼を慕い、早田組の下っ端ヤクザになった。
そんなあるとき、純平は組長から直々に敵のヤクザの命(タマ)を獲るよう指示を受ける。
しかしこれは身寄りのない下っ端ヤクザである純平にとってはただただ栄誉あることで、びびったりひるんだりするよりは、自分にめぐってきたチャンスに燃えた。
そして純平は決行のそのときまで、しばらく離れることになる娑婆を満喫するための、3日間の「自由」を与えられるのだった。
しかしその3日は純平にとっては逆の意味で受難の3日間だった。
というのも、その3日のうちに、兄弟の契りを交わすヤクザの信也、一晩寝たヤリマンOLの加奈、ゲイの青年ゴロー、西尾のじいさんなど、純平は多くの人と出会い、つながることとなったからだ。
幼いころに母に捨てられて以来天涯孤独だった純平にとって、この3日で次々と出合った人たちと関わる温かさは、娑婆に残す後悔になりうるものだった。
そして鉄砲玉として人を殺し、自分の青春のときを刑務所の中で過ごすこととなる空しさに気づき、心が揺れるのだった。
知り合いのオカマを助けるためのヤクザとの諍い、西尾のじいさんの奪還、焼肉、焼肉に次ぐ焼肉。加奈が立てた純平に関するスレッドをきっかけに、白熱するネット上の議論。
そして訪れる運命のとき。
構想なんてまったくありませんでした。僕は、「ストーリー」を描きたいわけじゃないんです。かといって「テーマ」を描きたいわけでもない。小説にとって、物語やテーマはあくまで「従」。人間が「主」。あえていうなら、人間のおかしさといったものを描きたかった。これは光文社のホームページに掲載された奥田英朗のインタビューだが、この作品はまさに「構想なんてまったく」という奥田の手法がよくわかる一冊だったといえる。筋があって物語がどこかに向かっていくというよりは、主人公が進んでいくままに物語りも進んでいくような物語だった。
「著者インタビュー」より
キャラクターはどれも魅力的だったが、笑える本的には特に西尾のじいさんがよかった。
元大学教授の無銭飲食常習者で、「いい子」であることに嫌気が差し、グレてしまった爺さんだ。この西尾のじいさんが、監禁された先のヤクザたちに「ヤクザ論」の講義をぶつシーンは名場面。
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