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書評ブログの【笑える本を読もう!】

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作品名: 現代、野蛮人入門
作家名: 松尾スズキ
ジャンル: エッセイ

笑:☆☆☆☆☆★★★★★
楽:☆☆☆☆★★★★★★
ス:☆☆☆☆★★★★★★
危:☆☆☆☆☆★★★★★
松尾スズキその他のエッセイ 
【名言・みどころ】
良識というものが幅を利かせ、どんどん息苦しくなっていく現代においては、心の中になににも縛られていない”野蛮人”を飼う生き方もありなんじゃないかと思います。
心の中に、楳図かずおを。

【書評・あらすじ】
 松尾スズキが新書を。
 新書ってぇとなんかあまりよく読まないので知りませんが、あれでしょ?この本を読んで自己を高めていつかは太陽エネルギーをインナーワールドに流し込んで手からオーラを出しながら患部に触れるだけで毒素が時計や貴金属になって具現化するのでみんないつか立派な社会人になろうよ、みたいな種類の本なわけでしょ。
 あの退廃と暴力とギャグだけでできた松尾スズキがそんな新書を出していて、しかも帯には「演劇界の鬼才が語る、世界をちょっとだけ生きやすくするヒントが満載」なんてことが書いてあるんだからなんだか驚きだね。
 語り口もギャグに走らずずいぶん肩の力を抜いた感じになってて、松尾さんもスズキさんもどうしちまったんだいといささか心配になってしまった。

 さて、本書は松尾スズキがいう現代の野蛮人としての生き方を綴ったものだ。
 この「現代の野蛮人」について本文では「良識というものが幅を利かせ、どんどん息苦しくなっていく現代においては、心の中になににも縛られていない”野蛮人”を飼う生き方もありなんじゃないか」と書いてある。
 ようは円滑な社会生活を送るためには表面上いい顔、いい行いをしておかなければならないけど、心の中だけでは「罪悪感のかけらもない」ひどい人間であってもいいじゃないの、というものなのだ。
 特に2章では「偽善だっていいじゃないか」というタイトルで独自の「偽善」論が展開されている。このテーマは松尾スズキがこれまで繰り替えし論じてきたもので、この本はその総括のようなものといえる。
 偽善というのは「いい人を演じる行為」であり、「善意」とは一線を画するものである。
 例えばゲストとして呼ばれた飲み会で、顔見知り程度の人たちの中でときどき話題にはぐれているとする。すると少し離れた席から、いかにも気の利く女風の人のこんな声が聞こえる――「ほら、あんたたち気をまわしなさい。吉村さんが一人じゃないの」。
 問題はこの声の主が「自分は気を利かせていいことをしている」と妄信していることであって、このように「善意」とは、その本人の無自覚さと破壊力の面で、ときとして殺人級に暴力的でさえある。
 松尾スズキのいう「偽善」とは、そんな「善意の人」であるくらいなら、いっそ自覚的にそれを演じ、いいことをしている自分を誰かに見られてほめられたい!「松尾スズキ、三宿で老人を助けたなう」とツイートされたい!そのためにも目の前で老人に倒れてほしいと願うことさえもいとわない!と、そんなみっともない自分の内面を肯定したほうが、自分も回りも幸せなのではないか、少なくともそれで倒れた老人も救われるわけだし、ということなのだ。
 それにしてもいちいち「いいこと」をするためにこんなひねくれたことを考えておかなければならないのだから、松尾スズキ、やはり生き辛い人だな。
 
 ところで松尾スズキの最初のエッセイ集『大人失格』の中で、喫茶「バカボン怒」のマスター「呼元氏」という人物のことが書かれている。
 なんでもこの人物は募金等のボランティア活動をしては、その様子を撮影し、その後「みんなで鑑賞」したりして楽しむのだという、「趣味の偽善」を標榜する男なのだ。
 この本を読んだ当時、すごい人もいるなーと驚いていたのだが、この人の話題がこの『現代、野蛮人入門』の中に出てきた。なんと、フィクションだったという種明かしとともに。
 なんでも当時付き合っていた女などにも早く「バカボン怒」につれてけとおねだりされたりしたのだそうだが、そりゃそうだ。僕もいると信じてたもの。
 なんだか、サンタがいないことに気づいてしまった小3の夏の気持ちを思い出した33歳の梅雨。
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