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奥田英朗の小説【書評一覧】 > 純平、考え直せ
《#438 純平、最後の願いだ。考え直せ。 by名無し》
【書評・あらすじ】
タイトルが『純平、考え直せ』。さらに背表紙のあらすじを見ると、「幹部の命を獲ってこいと命じられた」ヤクザの下っ端の純平に、ネット上で「忠告や冷やかし、声援が飛び交」うとある。
このタイトルセンス。そして浅田次郎思わせる「任侠ドラマ」で、さらにそこに2ch的要素まで含まれるというのだ。なんとも笑える本的名作の匂いが濃厚な一冊じゃないか。
そんなわけで、普段はあまりそんなことをすることはないんだけど、思わず定価でジャケ買いしてしまった。
しかしそんな事前の「笑える本的」期待値の高い小説でありながら、読んでみると内容は思いのほかシリアスな作品だった。
主人公の坂本純平は、幼いころに母親に捨てられてからというもの天涯孤独に生きてきた。
喧嘩のおりに、ヤクザの北島と出会ってからは、彼を慕い、早田組の下っ端ヤクザになった。
そんなあるとき、純平は組長から直々に敵のヤクザの命(タマ)を獲るよう指示を受ける。
しかしこれは身寄りのない下っ端ヤクザである純平にとってはただただ栄誉あることで、びびったりひるんだりするよりは、自分にめぐってきたチャンスに燃えた。
そして純平は決行のそのときまで、しばらく離れることになる娑婆を満喫するための、3日間の「自由」を与えられるのだった。
しかしその3日は純平にとっては逆の意味で受難の3日間だった。
というのも、その3日のうちに、兄弟の契りを交わすヤクザの信也、一晩寝たヤリマンOLの加奈、ゲイの青年ゴロー、西尾のじいさんなど、純平は多くの人と出会い、つながることとなったからだ。
幼いころに母に捨てられて以来天涯孤独だった純平にとって、この3日で次々と出合った人たちと関わる温かさは、娑婆に残す後悔になりうるものだった。
そして鉄砲玉として人を殺し、自分の青春のときを刑務所の中で過ごすこととなる空しさに気づき、心が揺れるのだった。
知り合いのオカマを助けるためのヤクザとの諍い、西尾のじいさんの奪還、焼肉、焼肉に次ぐ焼肉。加奈が立てた純平に関するスレッドをきっかけに、白熱するネット上の議論。
そして訪れる運命のとき。
構想なんてまったくありませんでした。僕は、「ストーリー」を描きたいわけじゃないんです。かといって「テーマ」を描きたいわけでもない。小説にとって、物語やテーマはあくまで「従」。人間が「主」。あえていうなら、人間のおかしさといったものを描きたかった。これは光文社のホームページに掲載された奥田英朗のインタビューだが、この作品はまさに「構想なんてまったく」という奥田の手法がよくわかる一冊だったといえる。筋があって物語がどこかに向かっていくというよりは、主人公が進んでいくままに物語りも進んでいくような物語だった。
「著者インタビュー」より
キャラクターはどれも魅力的だったが、笑える本的には特に西尾のじいさんがよかった。
元大学教授の無銭飲食常習者で、「いい子」であることに嫌気が差し、グレてしまった爺さんだ。この西尾のじいさんが、監禁された先のヤクザたちに「ヤクザ論」の講義をぶつシーンは名場面。
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