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浅田次郎の小説【書評一覧】 > 薔薇盗人
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浅田次郎の魅力は、『鉄道員』のようなしっとりした純文学が書ける一方で、<プリズンホテル>シリーズや<きんぴか>シリーズのようなユーモア小説を書くこともできるところ。
そんな浅田次郎の魅力がきゅっとつまっている短編集がこの『薔薇盗人』だ。
ひなびた温泉街の場末のストリップ、4畳半に暮らす貧しい母娘と母の恋人。
基本的にこの短編集の色調は、貧しさの中にはぐくまれる情、といういかにも浅田次郎らしいテーマで、しっとりとした優しい雰囲気に包まれている。
しかしそんな中に、ユーモア小説が紛れ込んでいる。
「奈落」と「佳人」の2篇だ。以下あらすじ。
奈落
庶務課課長代理の片桐が死んだ。
片桐は入社当時は東陽物産随一の切れ者として知られる若手だったが、人事の件で上司に反論してからは完全に干され永年雑用係の庶務課暮らし、以来切れ者の影はひそめ、どじ社員として誰からも無視されるようになっていた。
そんな片桐の死に様は、ゴンドラが来ていないのにドアが開いてしまったエレベーターに乗り込みそのまま転落する、というものだった。
どじ社員として馬鹿にされ続けた片桐らしい最期だった。
片桐に身よりはなく、葬儀は東陽物産の庶務課が仕方なくいやいや開いた。
そんなどうでもいい通夜や葬式に参加することになってしまった東陽物産の社員たちの愚痴や噂話によって、この物語はつむがれる。
そしてそんな社員たちの会話から、徐々に片桐の死の意外な真相が明らかとなる…
佳人
身長180センチ、容姿端麗、明朗闊達で語学は堪能、歳は38で独身。
それが新一の部下の吉岡という男だ。
38で独身。
有能であるだけに、このままでは吉岡を海外支社に引き抜かれてしまうことを恐れた新一は、70歳の母を介して吉岡に見合いをさせることを決意する。
しかしこれだけの男がこの歳まで独身であったことから、新一ははたと不安を感じる。
というのも吉岡はホモ、あるいはインポか恋愛トラウマの持ち主かもしれないと思い至ったのだ。
そんな不安を抱えながら、吉岡を自宅に呼び出し、いよいよ新一の母から見合いの話を切り出すことになる。
果たしてこの見合いの結末は…
この2篇については、爆笑小説というよりは、ユーモア小説と呼んだほうがよさそうだ。
大爆笑を誘う作品ではないが、くすりと、あるいはニヤリとしてしまうこと請け合い。
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