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原宏一の小説【書評一覧】 > 天下り酒場
変な設定の上で突飛ではない丁寧な物語を書く原宏一の短編集。これまで『床下仙人』と『ダイナマイト・ツアーズ』を読んだけど、この3作品の中で一番笑えて気に入った短編集だった。
表題作「天下り酒場」を含む6編の短編を収録。
1.天下り酒場
居酒屋「やすべえ」を営むヤス。経営は苦しいが足しげく通ってくれる常連客のおかげでなんとかやっている。そこにあるとき、常連客の一人から、頼みごとをもちかけられる。というのも県庁のお役人の「天下り」を引き受けてもらえないか、というのだ。
かくして働き始めた元県庁のお役人片岡。初めは片岡の改善による売上上昇に気をよくしたヤスだったが、気が付けば店はエラいことになってしまっている。
2.資格ファイター
資格を取得することにかけては天才、しかしいざ実際に仕事の現場に就くとてんでだめな駄目社員、勇一郎。これまでに取った資格は300近くに及ぶが、自分の「使えなさ」を実感している勇一郎にとって、もはや受かってもどうでもいいことになっていた。
しかしそんな勇一郎の才能に目をつけた芸能プロダクションを自称するヤマカンという小太りの親父に見込まれ、「資格ファイター」としてタレントS-1ファイター「YOUイチロー」として売りだされることに。地元のスーパーでの地方周りのシーンは秀逸。
3.居間の盗聴器
笑える本的名作。妻に言い渡されいやいやながらテレビの裏の配線をいじろうとしたところ、とぐろをまくテレビ関係のコードの下に盗聴器らしきものを発見する。なぜこんな普通の家庭の居間にこんなものが仕掛けられたのかわからないが、今はきっとそういう時代なのだ。
これまで家族とはろくにコミュニケーションをとらず、妻とは口を利いても愚痴と夫婦喧嘩ばかりだった章介だったが、仕掛けられた盗聴器からそのようなプライベートを盗み聞かれることを恐れ、早く帰宅、家族と食卓を囲むといった、盗み聞かれても恥ずかしくない生活を演じ始める。
ショートショートのような納得させられるオチもあり、心温まる名作。
4.ボランティア降臨
あるとき押しかけるように我が家にやってきたボランティアのクボタミチコ。いろいろやってくれるのは助かるが、住み込みで我が家関係のあらゆることをやってくれるというのはちょっと度が過ぎている。苦言を呈しても「善意ですから」と交わされてしまう。不気味に思っていた喜美江だったが、家族は喜んでいるし、自分はパートで忙しいし、なんか家での自分の存在意義も曖昧になってしまったし…。
ところでこの作品、どこかで見たことある話だなと思っていたら、「世にも奇妙な物語」の原作だった。
世にも奇妙な物語 春の特別編2009で映像化。ボランティアのクボタミチコ役は大竹しのぶ。うむ、イメージどおりの適役だ。「不気味な善意のボランティア」を演じるのにこれほど適した女優がいようか。
ほか2話(「ブラッシング・エクスプレス」「ダンボール屋敷」)収録。
居酒屋に天下りする元役人、なんの変哲もない家庭に現れた盗聴器、突然押し入ってきたボランティア、etcetc。原宏一という人の作品は、どの話も設定としては変なのだが、物語としてはきちんとしている。いずれの設定にも読者が納得するだけの説明がきちんとつけられるのだ。
そういった、変な設定の上での丁寧なストーリーというのがこの原宏一の作品の特徴なのだと思う。
最近お気に入りの笑える本作家。
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