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中島らもの小説【書評一覧】 > 君はフィクション
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この『君はフィクション』は、らもさんが亡くなってから2年後に発売された短編小説集で、最近になって(2009年7月)文庫化された。
僕は単行本を持っていたのでその文庫化はスルーしていたのだけど、先日ブックオフで文庫版を何気なく手にとってみて、ややっと驚かされてしまった。
というのも開かれたページの内容にまったく見覚えがなかったのだ。
読んだ本の内容を忘れるということはままあることで、こと物覚えのよくない僕は、数年前に一度読んだ本を読みなおしたとき、それをまるで初見のように楽しめるという、嬉しいんだか空しいんだかよくわからない特技をもっている。
しかしそれはとりわけエッセイ集に関していえることで、物語の内容を綺麗さっぱり完全に忘れてしまうというのはいくらなんでもありえない気がする。
まったく見覚えのない小説、とうとう俺もここまで…と思わず不安な気持ちになってしまった。
しかし解説によると、どうも文庫化に伴って単行本未収録の幻の3篇が追加されたということらしい。
あ、そうかそうか、それなら納得、うんうん、としばらくニコニコしていた。
が、すぐに別の驚きに襲われた。
なぬ?!
この驚きは、1つにまだ見ぬらもさんの小説が存在したという喜びだった。まさかこの期に及んでこんな嬉しい発見があるとは思わなかった。
そしてもう1つに、すでに単行本を持っているというのに、ほとんどおんなじ本を買わないかんやん…という悲しさがあった。
うえーん。おとなのやりかたってきたないや。このはいきんしゅぎしゃのくそぶたびっちどもめ!といった思いだ(ブックオフで買ったくせに何をえらそうに)。
しかしもちろんそこで「買わない」という選択肢は存在しない。
なんとなれば、全著作はもちろんのこと、遺稿集、DVD、バンドのCDまで所有している僕なのだ。これは愛読者の域を超えて、コレクターと呼ぶべきものだと思う。
とにかく中島らもの言葉という言葉に魅了されたものとして、未読の小説の存在が許されてなるものか、というのだ。
さて内容。
「DEKO-CHIN」や「ねたのよい」などにかなりの衝撃と感銘を受けながら読んだのだけど、それらはいかんせん「笑える」小説ではないので残念ながら割愛。
笑える本の観点からみると、「結婚しようよ」がよかった。本当に、とてもよかった。
かげりの見えたヒッピームーブメント。そこに欺瞞を見出しながらも、開催されたフォークジャンボリーに足を向ける主人公とその恋人。
はっぴーえんど、三上寛、吉田拓郎などが出演するフォークジャンボリーを、主人公は興奮しながら、そしてときに冷めたまなざしで眺める。
その一夜のできごとが、可笑しく、そして切なく描かれている。
そのほか「山紫館の怪」(にやりと笑える)と「地籍神」(狂言、ギャグ)あたりが笑える。
また未収録だった3篇については、「シビレタ」の一言。
とても短い短編なので、物語としてはたいしたことはないのかもしれない。
しかし節々にちりばめられた言葉がいちいちかっこいいのだ。
「退屈にはウンザリだ。そいつは小うるさい母親のように俺をドアの隙間からのぞき込んでいる」
くぅ、しびれる!
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