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原宏一の小説【書評一覧】 > かつどん協議会
原宏一のデビュー作。
原宏一といったら、突然何の変哲もない我が家に盗聴器がしかけられたり(『天下り酒場』)、借金を背負わされた夫婦が爆破屋に目覚めたり(『ダイナマイト・ツアーズ』)、マイホームの床下から仙人が出てきたり(『床下仙人』)と、変な話ばかり書いている。こうした変な設定の上で納得のいく説明をつけるのがこの人の書く小説の特徴だと思う。平たくいえば「世にも奇妙な物語」テイスト。
それで案の定というか、デビュー作のこの短編集もずばりそうだった。
以下、収録された3話のあらすじ。
かつどん協議会
かつどんをこよなく愛する蓑田が、あるとき行きつけの定食屋からある会合に代理で出席するように頼まれる。その会合とは、大の大人が口角泡を飛ばしかつどんについて議論する、かつどん協議会だった。
そもそもは食堂の連盟が、このところ人気が下火のかつどんの復活を願いキャンペーンを組んだのがきっかけだったのだが、いつしか会合は養豚協同組合、鶏卵連盟、農業連合会などを巻き込み、かつどんにおける主導権争いに進展していたのだった。
よくもまあと感心するほどに、ひたすらかつどんについて御託が並べられた短編。
筒井康隆を彷彿とさせるドタバタ劇。
くじびき翁
フリーライターの小田島は、街頭で珍妙な演説を行う老人と出会う。その老人の趣旨は、方針決定の際、多数決をやめてくじびきで決めるべきだ、というものだった。
初めはしどろもどろな老人の演説をバカにしていたものの、次第に老人の真摯な政治への姿勢に感化されてゆく小田島。
そして老人は小田島の力添えによって世に認められることになる。
「ほんとうにくじびきは多数決より劣っているのか」
民主主義のあり方に疑問符を添える短編。
メンツ立てゲーム
「謝罪士」の仕事は、ただ相手に謝ることではない。相手のメンツを探り、そのメンツを立てることにある。
仕事上あるトラブルを抱えていた妹尾は、謝罪士と称する男、徳丸との出会いをきっかけに、名誉挽回のため謝罪に運命をかける。
謝罪相手のスーパーの社長夫人のメンツはいったいどこにあるのか。
また、果たして妹尾は社長夫人のご機嫌を回復することができるのか。
かつどんのための会合、くじびきによる決議、謝罪士、いずれの話もどこにもありもしないものをテーマにしているのだけど、物語としてはシュール路線に放り投げないできちんと筋がとおっている。
デビュー作から原宏一のイズムは出来上がっていたわけだ。
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原宏一の小説【書評一覧】 > へんてこ隣人図鑑
23話のショートショートと短編を1本収録したユーモアショートショート集。
いかにも原宏一らしい、世にも奇妙な物語になりそうなちょっぴりシュールなユーモアがてんこ盛り。
最後の一行でオーと納得させられたりアハハとかニヤリと笑わされたり。オチの部分に力が入れてあり、いかにもショートショートといった一冊となっている。
以下いくつかあらすじ。
きかれる男
とにかくやたらに人から「聞かれる」フミオ。定番の道順に始まり、印鑑証明からホッケの味まで尋ねられ、しまいには刑事から犯人の行方を聞かれる始末。あるときそんなフミオが電車のホームにいると、電車の遅延アナウンスが流れる。すかさず「電車、いつ来るんですかねえ」と尋ねられるフミオ。さあ、と答えるとまた別の方向から「振り替え輸送、やんないのかしら」との声。そして駅員でもないフミオに、どういうわけか周囲から次々に質問が浴びせられる…。
見るな
バスを待つ人は、何を意図するわけでもなく、バスがやってくる方向を見てしまうものだ。バスが来るほうを眺めていたからといって、バスが早く来るわけではない。また、バスが来れば気づかないはずはないのだから、わざわざバスのほうを見ている必要もないはずなのだ。にも関わらず、人はなぜかバスを待つ間、バスのやってくる方角を眺めてしまう。
この物語の主人公もやはり、何の気はなしにバスの来る方を見ていた。しかしそんな主人公にふいにこのような言葉がかけられる。
「やめてくれませんか」
穴を掘りたい男
タカダミツルは穴を掘りたい。とにかくただひたすらに穴を掘りたい。新品のシャベルでざっくざっくと穴を掘りたい。それは植林などの目的のためであってはならない。純粋な行為として、穴を掘りたいのだ。
しかし現代という時代は、このような願望を抱いてしまったミツルにとって、非情かつ過酷な時代だった…。
百年モグラ
掘削と埋め立て。これらが世界のいたるところで行われている。おかげで地球の表面のバランスは著しく崩れてる。そしてコマが円盤部のバランスが悪ければきちんと回らないように、地球も今、アンバランスな比重によってその回転軸が歪もうとしている。
今、その問題を解消するために、通称『百年モグラ』作戦が実行されていという。東京を意図的に地盤沈下させ海に沈めることで地球の表面のバランスを保とうという計画なのだ。しかし事態があまりにも大きすぎるため、その事実はごく一部の人々にしか明かされてはならないという。
では、その選ばれた「ごく一部の人々」とはいったい誰のことなのか。
このほか19話のショートショートと、1話の短編小説が収録されている。
一話一話が短いのでさらっと読め、なおかつ原宏一ワールドを堪能できる一冊。
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