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書評ブログの【笑える本を読もう!】

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作品名: ロコ!思うままに
作家名: 大槻ケンヂ
ジャンル: 短編小説

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆★★★★★
ス:☆☆☆☆☆★★★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆☆★★
大槻ケンヂその他の小説
【書評・あらすじ】
 ぱんぱかぱーん。
 とむやみに軽薄な昭和タッチの明るさで始まった今回。
 それもそのはず。今回紹介するオーケンの『ロコ!思うままに』こそが、当ブログの記念すべき300冊目の紹介なのだ。まあ300冊目といいつつ、ひとつの書評記事で2冊3冊紹介している場合もあるので、正確には300書評目。
 考えてもみれば当ブログも始めてから丸3年経ったわけで、始めた当初は5~10行ほどの寸評を載せるブログにするつもりだったんだけど、気がつけば毎回最低600字は書くようなわりとまともな書評ブログに変わっていた。
 3年も経てばそれくらいの変化もあるのだ。
 書評数300。なかなか感慨深いものがある。
 この記念すべき回に大槻ケンヂを紹介できるというのもなかなか味わい深いものだ。
 というのも僕が読書を始めるそもそものきっかけとなったのが、大槻ケンヂの自伝的エッセイ『わたくしだから』だからだ。とはいえ当時は筋肉少女帯のボーカル大槻ケンヂとしてリスペクトしていたから読んだだけだったけど。

 さて、そんな記念すべき300記事目を飾る、大槻ケンヂの短編集、『ロコ!思うままに』。
 大槻ケンヂが30代の間に書き溜めた短編をまとめた一冊なのだそうだ。全体的にはバンド<特撮>をやっていたころのオーケンのイズムで統一されている感じだった。
 具体的にはグロとホラーと宗教とUFOとギャグとロックンロール。
 表題作の「ロコ!思うままに」や「モモの愛が綿いっぱい」(正しくは「綿いっぱいの愛を」)などはバンド特撮の曲のタイトルにもなっている。
 物語としては、あれ?この話最初のノリは明らかにギャグ小説にする予定だったんじゃ。途中から気が変わってホラーにしちゃったのかな?といったムラを感じる話が多かった。
 そんな中、以下の2話は安心して読める笑える短編だった。

モモの愛が綿いっぱい
 火事で愛する妻子を失った主人公。半ば壊れ気味にそうだ死のう、と決めて自宅マンションへ帰っていたのだが、なんとなく助けを求められた気がして、UFOキャッチャーで見かけた人形を1万円をつぎ込みながらもなんとか手に入れた。
 主人公は赤ん坊と同じ大きさのこの人形に猛烈な愛情を抱き、息子桃太の身代わりとして「モモ次郎」と名づけた。
 こうしてモモ次郎を手にしたことで愛情を快復した主人公は、しばらくは平穏な日々を送る。
 しかし生きていく中で、やはり家族の身代わりにはできないのだと確信したとき、やはり絶望が主人公を包む。
 やはり死のう。
 そんな決心を主人公がしたところ、「パパさん、死んじゃダメだよ」、そんなことをモモ次郎がしゃべり始める。
 かくしてしゃべり始めたモモ次郎と主人公は、翌日から鎌倉に旅行に出かけることになる。
 近所で家族を亡くし壊れ気味とうわさされる30代のおっさん。その片手には赤ん坊の格好をした人形。
 そして2人(?)は仲良く会話(傍から見ると完全に腹話術)しながら歩いているのだ。
「見ちゃダメよ!」「しっ!危ないから目を合わせないで!」
 そんな奇人に対する善良な人たちの描写は、さすがオーケン。大いに笑っていただきたい。
 ちなみに実は当時(今もかもしれない…)オーケンは怪獣ブースカの人形を赤ん坊にみたて、デートの際にも女は後ろブースカが助手席、ライブにもブースカを出演させるなど、ブースカ人形を偏愛していたという経緯がある。
 そんな自身を主人公にみたてた短編なのだろう。と考えると結構怖いな。オーケン。

神様のチョイスはKISS
 ハードロックバンド「スティルデイジー」のギタリスト、ロジャーこと亀本三平は、「ファミリーどんじゃか秋祭り」のステージからワイヤーに吊られ「仲よしガーデン」上空を飛んでいた。
「かっちょいいぞゲルゲドルゲ~!!」
 眼下では自分のことを怪人ゲルゲドルゲと勘違いした子どもがうれしそうに手を振っていた。
「あ、もう俺、やめよ」と思った。
 そんな冒頭から始まるこの短編。すでに冒頭から飛ばしている。
 どんじゃか秋祭りから8年。ロジャーこと三平はロックから足を洗い、化粧品会社で営業をしていた。年は今年で40だった。
 そんな8年後のある日、ベースのポールこと棒野から突然電話がかかってきた。
「ロジャー、バンドを再結成する。明日、極秘のミーティングを行う。来いよ」
 かくしてロジャーとポールの極秘ミーティングは近所のファミレスで行われることとなったのだった。
 ちなみに僕もバンドマンだったけど、不思議とバンドマンのミーティングはほんと、ファミレス。それもドリンクバーがあるような。これだけはゆずれない。
 そもそも俺たちがロックを愛し、ロックにすべてをささげた理由はなんだったっけ。
 そんな忘れられた情熱の根源を、齢40の、8年前にゲルゲドルゲと間違えられた男は取り戻すことができるのか。
 果たしてスティルデイジーの復活はあるのか。

 どうも、300記事目ということで、いつもより多めに書いております。
 作品の内容紹介はここまで。ここから以下は読んでいて気になったことを一点。

 上に紹介した「神様のチョイスはKISS」と、巻末に収録された「天国のロックバス ロコ!もう一度思うままに」の2篇に気になる登場人物が出てくる。
 まず「神様のチョイス~」でその人物はこのように描写される。
 その男は三平がふらりと入った中古CD屋の主人なのだが、主人というより一見すると浮浪者のような見た目で「薄暗い店内において真っ黒のサングラスをかけて」おり、「そしたら、こっちで選ぼかあ」と「テープがのびたような、ゆっくりとした関西弁」でしゃべるという。
 さらに、このCD屋店主とそっくりな男が今度は「天国のロックバス~」にも出てくる。
 主人公の乗り込んだ謎のバスの運転手が問題の人物なのだが、そのバスの中でこの人物はこのようなことを言う。

「一生パンクしたママチャリを漕いどれ。吸気注入口が地面に当たる度に君の肛門へ異様な衝撃がゴン!ゴン!ゴゴゴン!」と伝わりその連続はいつしかヘロイン的中毒症状を君の身に引き起こすこととなるやろう。さらなるアナルの快感を求める内に君はやがて肛門性交へとたどりつくんや。この自転車タイヤパンクをきっかけとする同性愛化現象を詳しく述べたドラッグ文学があるのを知っとるか君は?
「……いや、知らないです。全然……」
「バロウズの『おかま』に決まっとるやないか。……ふふ、ふふふ」
 
 一見浮浪者のような見た目。暗がりでもグラサン。ゆったりした関西弁。そして肛門性交やドラッグなどの怪しい話題とそこから引き合いに出されるウィリアム・バロウズ、「ふふふ」笑い。
 ついでに大槻ケンヂのリスペクトも合わせて考えるとこの人物、100%確信を持って述べるが、明らかに中島らもだ。
 なんなら上に引用した台詞の物言いなど、かなり忠実に中島らもの語りを再現しているといえる。

 記念すべき当ブログ300記事目で、僕に読書を始めさせた大槻ケンヂと、さらに読書にどっぷりつからせた中島らもが妙な形で共演することとなった。
 なんとも記念すべき回になった。
 以上いつもより多めにサービスさせていただいた当ブログ300記事目。これにて閉。
 これからもよろしゅう。

追記:
中島らもがモデル、の話は本当でした。「神様のチョイスはKISS」のエピソードなんかも含めてエッセイ集『暴いておやりよドルバッキー』の中で語られています。
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笑える本を読もう! > 大槻ケンヂの小説【書評一覧】 > ロッキン・ホース・バレリーナ

作品名: ロッキン・ホース・バレリーナ
作家名: 大槻ケンヂ
ジャンル: 長編小説

笑:☆☆☆☆☆☆☆★★★
楽:☆☆☆☆☆☆☆☆★★
ス:☆☆☆☆☆☆☆★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆☆★★
大槻ケンヂその他の小説 
【書評・あらすじ】
 18歳で夏でバカ。
 耕助、ザジ、バンの3人が組むスリーピースパンクバンド「野原」が、マネージャーの得さんに連れられて初の全国ツアーに出る。その道中、一行はロッキン・ホース・バレリーナを履いた妙なゴスロリの少女を拾い、なんだかんだと同行することに。ダメな男たち4人と変な女の子1人を連れて、「野原」は東京、名古屋、京都、大阪と、ライブの最終地点博多を目指し南下してゆく。
 各々が抱える心のすき間、個人的な問題、そしてロックとライブ。
 KISSの"God Gave Rock and Roll to You"を物語の核に据え、少年とおっさんと謎の少女の旅は続く。

 ロックを純粋に目的としている若者と、それを手段として利用しようとしている大人。
 物語の主軸にあるこの構図を描けたのは、バンドマン(オーケンは筋肉少女帯のボーカルである、念のため)として内部から80年代バンドブームを見てきた大槻ケンヂにしか書けないものだったろう。

 それにしてもやはり大槻ケンヂの小説はいい。
 というか初期の小説はドロドロしてるだけで好まなかったんだけど、先日短編の『ゴシック&ロリータ幻想劇場』を読んで以来すっかり評価を覆してしまった。
 そして案の定この『ロッキン・ホース・バレリーナ』も良かった。
 心の傷とか恋とか青春とか、描かれる物語はそうとうにクサい。実は恥ずかしくなっちゃうほどに青臭いはずなのだ。
 しかしそんなクサさを、ロック(≒バカ)が中和している。

 総ページ数およそ400ページというかなりの長編小説だと思うんだけど、描かれるストーリーは超シンプル。読者の期待をまったく裏切らない展開とでもいおうか。
 しかしそのシンプルさがとても心地良い一冊。
「神が我々にロックンロールを与えたもうた」
 キッスの名曲をBGMに、ロックに賭けた若者たちのひと夏の青春を描いた青春ギャグ小説。
 ロックの素敵さを再認識させてくれる一冊。またバンドがやりたくなった。

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