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作品名: Winnie‐the‐Pooh 作家名: A. A. Milne ジャンル: 洋書・小説 笑:☆☆☆☆☆★★★★★ 楽:☆☆☆☆☆☆★★★★ ス:☆☆☆☆☆☆★★★★ 危:☆☆☆☆☆★★★★★ この他の笑える洋書 |
プーの生みの親、A.A.ミルンは第一次大戦に志願兵として参戦している。
それも最たる激戦地と称されるソンムの戦いに送られており、さらにそこでもっとも悲惨だとされる塹壕戦に参加している。塹壕戦とは、戦場中に兵士が隠れるための溝を張り巡らせ、兵士たちはそこにねずみのように潜んで、自分のところに爆弾が飛んでこないことを祈るばかりの戦いだったという。
プーのあの満ち足りた世界観から考えると、この作家のバックグラウンドはとても意外な気がする。
ミルンは1913年にドロシーと結婚する。
しかし翌年には大戦が勃発、翌1915年には自ら志願して従軍している。
そしてそこで上述のように塹壕戦を経験するのだけど、戦場からは無事生還する。
そして終戦後間もなくドロシーとの間に一人息子が生まれる。
その息子の名はクリストファー・ロビン・ミルンという。
プーの物語は実はクリストファーの就寝時に彼を主人公にして聞かせたストーリーテリングが元で、そもそもはこの一人息子クリストファーと妻ドロシーの人形遊びから生まれたものなのだそうだ。つまりプーはミルンの一人息子の子ども部屋から生まれたのであり、家族がいなければプーは生まれなかったのだ。
息子クリストファーはテディベアが大のお気に入りだった。どうも1歳年下の弟だと思っていたらしい。そしておそらく子ども部屋には、子ブタやロバ、ウサギ、カンガルー、新参者のトラなどの人形もあったんだろう。
ところでこの『Winnie-the-Pooh』が出版されたのは1926年。大戦の終結から10年も経っていない。
それなのにこのプーが暮らす100エーカーの森の満ちたりた感じはなんなのか。
そういえば100エーカーの森には2つの特徴がある。それをヒントにこの疑問は解明できるかもしれない。
1つは現実の世界から隔離されていること。
100エーカーの森と我々が暮らす世界にはどこにも接点がない(クリストファー・ロビンの子ども部屋はつながってるんだっけ?)。そのため作品中ティガーの登場のシーンでは、どこからともなくポンとティガーが現れたことになっている。まるで子ども部屋に新しい人形が放り込まれたように。
そしてもう1つの特徴は、大人が一人も出てこないということ。
森の住人は問題が起きると、森の中で一番賢いとされるクリストファー・ロビン(おそらく5~6歳)に相談にゆく。他の住人たちは彼よりも知能指数が低いとされる。つまりクリストファーがこの100エーカーの森では一番の「大人」なのだ。
このようなプーの舞台100エーカーの森について考えると、むしろミルンの戦争体験が逆説的に表れているような気がする。
というのも、この100エーカーの森というのは、穴にもぐって死をひたすら待つような大戦とそれを引き起こした大人が暮らす現実=ディストピアから隔離された、ミルンのユートピアのように見えるからだ。
つまりこの時代に、同時代の作家たちがこぞって描いた陰鬱な影が一切描かれないということこそ、かえってミルンの戦争体験の悲惨さを物語っているようにも考えられる。
プーが本作で歌う詩の「I could spend a happy morning, being Pooh」(僕は幸せな朝を迎えることができたんだ、プーであることで)という一節はそう考えるといっそう深みが増す。
さて、ウンチクはここまでにして、笑える本としての感想。
なるほど序盤は子ども向けの本といった感じの内容だった。
ディズニーでお馴染みの有名な、ラビットの穴にはまったプーさんをみんなで引っ張る話も序盤に含まれている。この話はけっこうよくて、穴にはまったプーの「北端」(north end)に向かってクリストファー・ロビンが本を読み、「南端」(south end)をラビットが物干しに使うところは名場面。まあしかし大まかに言って、前半はクスリとおかしい、って感じかな。
しかしこの本の後半になるにつれ徐々に笑える具合が増してくる。
恐らく書きながらミルンが乗ってきたのだ。
始めは息子を喜ばせようと児童小説を書いていたつもりが、途中から書くことに目覚めちゃったって感じだろうか。
特に最後の3話、「In Which Cristopher Robin Leads an Expotition to the North Pole」(クリストファーロビンが北極「たぬけん」を率いる)、「In Which Piglet is Entirely Surrounded by Water」(ピグレットが水に囲まれ孤立する)、「In Which Cristopher Robin Gives Pooh a Party, and We Say Good-Bye」(クリストファーロビンがプーにパーティを開いてあげて、そしてしばしのさようなら)がよかった。
※邦題は管理人による。内容と原題を混ぜた感じ。
そもそもブリティッシュユーモアは辛らつさを前提としている。けっこうびっくりしちゃうくらいに辛口のジョークが持ち味だったりする。
その辺この本は序盤がいかにも児童向け小説らしい。しかし後半から徐々にブリティッシュユーモアの辛口テーストが漂い始める。そのあたりからが本格的に面白くなってくる。
そしてこの『Winnie-thePooh』を書き終えたそのノリノリの状態で、シリーズ2冊目の『The House at Pooh Corner』が書かれているっぽい。
つまり『The Corner~~』のほうが大人好みの辛口の笑いが多いってことね。
英語の本としてはこの講談社の版だったら最後に簡単な単語の注もついているのでおススメ。
楽しく英語を読んでみたいならこのシリーズは大いにありですよ。
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作品名: The House at Pooh Corner 作家名: A. A. Milne ジャンル: 洋書・小説 笑:☆☆☆☆☆☆★★★★ 楽:☆☆☆☆☆☆☆★★★ ス:☆☆☆☆☆☆☆★★★ 危:☆☆☆☆☆☆☆★★★ この他の笑える洋書 |
ディズニーですっかりおなじみ「くまのプーさん」の原作。
当初はしょせんガキが読むもんやとなめてたんだけど、読んでみてびっくり。むしろ、これ子どもでも分かるの?ってほどのユーモアで溢れており、大人の読み物として十分通用する笑える本だった。
ディズニーとは別物として読むべし。
ブリティッシュユーモアでは伝統的に、体液の種類でキャラクターの性格を分類できるという。
ユーモア(humor)の語源はラテン語の医学用語「フモール」(体液の意)という言葉で、中世では人格は血液、粘液、黒胆液、白胆液と呼ばれる体液のバランスで決まると考えられていた。つまり過剰に血気盛んな人格は、血液過多のせいでもたらされる病気だと考えられていたというわけだ。
ほいでそのフモールが英語のHumor(人間性)という単語になり、過剰な性格が笑いを引き起こすという特徴からこの単語に現在のユーモア(笑い)という意味が加えられたんだと思う。
これは日本でいうと血液型による分類に近いんではないかと思う。つまり、A型は計算高くO型は大雑把でB型はマイペース…といった具合に。
それでたとえば、血液型によるコントを作ると、こんなのができる。
A型
「O君、君がコピーした書類ね、このすみのここ、ここにシミがついているのだがね」
O型
「え?なんかありますか?僕にはみえないけど。まあ気にならないからいいんじゃないすか」
A型
「気になるのだよ、わたしは」
O型
「誰も気にしませんよ、ふつうは。だいたいAさんは細かすぎるんですよ。だからみんな。あ…」
A型
「み、み、みんながなんなんだね。」
O型
「あ、いや…」
A型
「そ、そうか。あーそうなのか。じゃあB君に聞いてみようじゃないか。私が細かすぎるのかどうか、彼に聞いてみようじゃないか。な。おいB君。このシミね、見えるだろ。このシミについて、君はどう思うかね」
B型
「はい。四国の形をしていると思います」
まあとにかく、こんな風に体液にあらわされるような典型的なキャラクターが物語に登場してユーモア世界を形作る、とこういうのがイギリス文学のユーモアの伝統にはあるわけ。
それで話を『The House at Pooh Corner』に戻すが、このプーさんの生きる世界(100エーカーの森)は、まさに上記のような典型的なキャラクターたちで溢れているのだ。
超がつくほどマイペースなプー、小心者のピグレット、やたらリーダーシップを取りたがるラビット、なぜか常にいじけているイーヨー、などなど。
この辺のキャラクターの性格を意識しながら読んでいくと、いくつかのページで笑える本的爆弾が仕込まれているので要注意。
なお、もちろんこれだけメジャーな本だったら訳本もいくらでも入手できると思うけど、むしろこの作品は英語で読まないと面白くない気がする。
それは一つに、英語的な笑いが結構あるというのがあるが、それ以上に「そのときプーさんはこういいました」なんて口調で読んだんじゃちっとも面白くないから。
英語としては、舐めてたら読めないよ、レベル。
難しくはないけど決して楽勝ではないので、英語の勉強や洋書の入門にいいかも。
同シリーズ1冊目の『Winnie-the-Pooh』も合わせておススメ。
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