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太宰治の小説【書評一覧】 > グッド・バイ
表題作「グッド・バイ」をはじめ、「眉山」「ヴィヨンの妻」など、太宰晩年の短編を5話収録。
収録作の中では160ページほどのボリュームを有する「パンドラの匣」がメインになるかと思う。
戦後、アメリカが日本に入ってきて間もない頃、主人公は結核で倒れ「健康道場」と呼ばれる結核療養所にはいる。不安な情勢下にあり、しかも主人公は松尾スズキの『クワイエットルームにようこそ』と同じような環境にいるわけだ。
こうなればあとは太宰節、さぞや暗い話になるべや、と思いきや、意外なことに話はとても明るい。
物語は主人公ひばりが友人に宛てた手紙、というスタイルで描かれる。そこに描かれるのは、患者と看護婦たちが互いにあだ名を付け合ったり、からかいあったり、恋心を抱いたり、といったとても温かで爽やかでさえあるほどの人間模様なのだ。そしてクスリと笑えるユーモアが随所にちりばめられている。
また表題作「グッド・バイ」は未完の遺作で、物語は途中でパタリと幕を閉じられてしまう。
主人公の男が付き合いきれなくなったあまたの女たちと手を切るために、知り合いの女に恋人役をお願いする、といった筋で、ワクワクするような展開だけに、未完だったことが惜しまれる。
この物語が完成されていたら、結末は恐らく元祖「ツンデレ」のようなことになっていたような気がするんだけど、どうなんだろう(笑)
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太宰治の小説【書評一覧】 > 走れメロス
角川版『走れメロス』の背表紙で、「走れメロス」は「身命を懸けた友情の美しさを描いて名高い」と評されている。まあこれがこの作品の一般的なイメージだと思う。
実際、小学校の頃に教科書でこの話を読んだであろう僕も、てっきりそういう話だと思っていた。つまり高潔な人物メロスが、友を救うために走った、という感動的な物語として。
しかし改めて作品を読み直してみると、あまりにも様相が違うので、ややっと驚いた。
高潔だと思われていたメロスの実際のキャラクターはこうだったのだ。
1.勝手に城に殴りこんで捕まり、本人に無断で親友を人質として差し出す
2.妹の結婚式に出席した後、急いで城に戻ればいいのに、あせることはないよと一眠り
3.起きたらすぐに走っていけばいいのに、あせることはないよ、とのんびり徒歩で
4.川の氾濫を見て、戻れないじゃん、と嘆く
5.途方に暮れる、泣き言をいう
6.諦める、泣き言をいう
7.言い訳をする、泣き言をいう
8.泣き言をいう
9.泣く
以下略
こんな調子なのだ。The ダメ人間。
タイトルの「走れ」の部分はてっきり励ますニュアンスの命令形なのかと思っていたけど、どうも正確にはカッコ書きで「(もっとまじめに)」という前置きがある気がする。そしてたぶんこれは気のせいではない。
つまりタイトルは正確にはこうじゃないか――「(もっとまじめに)走れメロス」
しかし、僕は教科書で読まされたメロスよりも、このダメ人間メロスが好きだ。とても人間臭い。太宰はメロスを、愛すべき不完全な人間としてきちんと描いていたんだと思った。とてもユーモラスで可笑しい。
ではなぜ僕はメロスを「高潔」だと、「走れメロス」を単なる感動の物語だと思っていたのか。
その事情は簡単なことで、教科書に載せる際、教育書として子どもに読ませるにはちょっと、と思われる箇所が「教育的配慮」の名の下に綺麗にカットされているからなのだ。そんなことが許されるはずはないのだけど。
特にラストシーンは完全に削除されているので、一般的にはあまり知られていないと思う。
この作品のラストはこのようなものだ。
暴君までもがメロスの勇気に胸を打たれ無罪放免、やんややんやの大喝采。
そんなおり、親友セリヌンティウスがメロスにこっそり耳打ちする。
「メロス、君は、まっぱだかじゃないか」
なんと!
「走れメロス」は、実はこのようなオチがついていた作品だったのだ。
しかしどうやら教科書からはばっさりカットされてしまっているらしい。
活字離れが問題視されているらしい昨今だけど、面白い作品がご丁寧にもわざわざ面白くないものに加工され、僕らはそんなのを読まされるのだから、そら誰だって本なんか好きにならんでしょう。
「走れメロス」は「身命を懸けた友情の美しさ云々」なんてつまらない話じゃあない。
もっと滑稽でバカらしくて豊かでかっこいい。
追記:
同記事を一生懸命書き直した記事が以下で楽しめます。おススメよ。
http://www.honzuki.jp/book/status/no26618/index.html
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