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書評ブログの【笑える本を読もう!】

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笑える本を読もう! > 宮藤官九郎の小説【書評一覧】 > きみは白鳥の死体を踏んだことがあるか(下駄で)

作品名: きみは白鳥の死体を踏んだことがあるか(下駄で)
作家名: 宮藤官九郎
ジャンル: 長編小説

笑:☆☆☆☆☆☆★★★★
楽:☆☆☆☆☆☆★★★★
ス:☆☆☆☆☆★★★★★
危:☆☆☆☆☆☆☆☆☆★
宮藤官九郎のその他の小説
【名言・みどころ
たとえば学校で友達とテレビの話なんかしてて、そのあと家で『夕やけニャンニャン』観てたら、自分がなかじーのことずっと「なかじん」と呼んでいたことに気づいて、恥ずかしさと取り返しのつかなさで夜中何度も思い出しては枕に顔を埋めて「うあーーっ!」と叫んだ、程度の話を書こうと思うんですけど、どうですかね松尾さん。

【書評・あらすじ】
 クドカンの小説があったらぜったい読むのに書かねえのかな、と思っていたら地元でふらりと入った本屋で見つけてしまい即買い。すでに書いてた。なんなら単行本は2009年に出版されてた。
 文庫化は2013年11月。明らかに「あまちゃん」のヒットを受けあわてて文庫化したとしか思えないタイミングだが、もっと言えば恐らくそのまま文庫化されないはずだったような気さえする。
 まあ経緯はとにかく、ほしかったものが文庫で手に入ることはうれしいことだね。

 さて、冒頭に引用したのは小説の途中途中に挟まれる筆者コメントの一部で、ここでは舞台本番直前に「松尾さん」から小説を書くようになんとなく言われて、10分くらいなんとなく考えてからなんとなくこの小説を書くことにしたという経緯が語られている。
 ちなみに松尾さんとは大人計画の主宰、クドカンの師匠松尾スズキのこと。
 クドカンが言うにはこの小説は「虚8実2」くらいで書かれた私小説で、しかも自分の恥をさらけ出した小説なので「恥小説」(「ちしょうせつ」と読むのかな)なのだという。
 舞台は宮城県と岩手県の県境にある小さな町。時は1986年冬(1月か2月)から1987年夏。主人公はクドカンの本名、宮藤しゅんいちろう。
 つまりクドカンが高校生で童貞だったときの話なのだ。

 高校生で童貞でバカ。中学から高校にあがろうとする10代のしゅんいちろうは、定番ともいうべき「青春の三重苦」真っ只中にいる。
 ゲイリー・ムーアにあこがれてギターを買ってはみたがろくに練習もせず、友人が共学に行って恋人を作り童貞を捨てる中「努力は水面下で」したいというよくわからない理由で男子校に進学し、「コーマン」に憧れる一方セックスにおびえ、修学旅行先で見かけた清楚な女の子が自分に一目ぼれした妄想をし、たけし軍団にあこがれて「高田文夫の面白素人さん」に出てやったコントがドンすべりした挙句パニックになり最後はちんぽを出す…。
 冒頭の筆者コメントでクドカン本人が言っていたように、程度の違いこそあれ誰もが10代にやってしまったであろう、枕に顔を埋めて「うあーーっ!」と叫びたくなるような経験が作中描かれてゆくのだ。
 作中クドカン本人が言っているが、概して青春小説というものは「主人公が何かを学ぶまで終われない」ものだ。つまり、青春の三重苦にいるしゅんいちろうが、わずか1年半の物語りの中で何を学ぶかがこの小説のみどころになるのだろう。

 ところで、この小説で笑本的にもっとも魅力的なキャラクターはなんといっても「白鳥おじさん」だろう。
 むしろ白鳥おじさんが主人公といってもいいほどに重要な位置を占めており、明らかにしゅんいちろうを含む他のキャラクターを食ってしまっている。
 白鳥おじさんとは、誰に頼まれたわけでもなく河原で白鳥たちの餌付けをしているおじさんで、概してそういうおじさんはそうなのだが、町にひとりはいるキチガイの不審人物と思われているような部類のおじさん(小卒)なのだ。
 クドカン本人が書いているが、このキャラクターは松尾スズキをイメージして描かれている。
「残っているのはね、ケガや病気で体力が落ちて、飛べない子なの、飛びたくても飛べないの」
 まさか、この三羽の白鳥を僕ら三人に喩えて、諸君もいずれ飛び立つ的な、ちょっとイイ話に持っていこうとしてる?
「僕がエサをあげないとね、ますます弱ってしまうんだよ……そんな可哀相な白鳥に消しゴム食わしてんじゃねえよ! 消しゴム食わしてんじゃーーねーえーよぉーーーっ!!」
 あまりにも不条理な感情の起伏なのだが、このセリフを見てもわかるように、白鳥おじさんは明らかに松尾スズキ、いや正しくは松尾スズキがいつも演じていキャラクターと同一人物であり、簡単にいうとやはりただのキチガイの不審人物なのだ。
 この白鳥おじさんは、悩めるしゅんいちろうの前に神出鬼没に現れては、時に不条理に切れ、時に童貞仲間として接し、時に南野陽子に扮しキスの指導をし、時にしゅんいちろうを導く決定的な言葉を発する。

 クドカンの処女小説ということだったが、確かにできごとがダラダラと時系列に書かれている印象で、小説としては斬新でもなく、完成度も高くなかったと思う。
 しかし脚本が本業だけあって、セリフまわしはさすが。
 全体的な笑える度は散漫なイメージだけど、特に白鳥おじさんの言動は破壊力がスゴイので注意。脳内で松尾スズキに演じさせるとなおよいだろう。
 電車などでは覚悟して読もう。

追記:
クドカンが冒頭のコメントで「虚8実2」の私小説と書いていたけど、どうもこの小説は「実2」どころかかなり実体験に基づいている気がする。中でも超体育会系の男子校に間違えて通ってしまった時代(狩野英考が後輩)の話なんかが印象深いけど、なんと作中で描かれているクドカンの高校時代のできごとまさにそのものをYoutubeで見つけてしまった。かなりの貴重映像だ。
動画つけると重いのでリンクを貼っておきます↓。小説読んだ後にこの映像見るとなかなか味わい深いと思う。
築高祭 後夜祭 1987.09.06
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